【コース体験記】Artscom@CSM Digital Photography 藤原ゆうすけさん
2009.06.03
セントマーチンズ短期コース
参加したコースは“Digital Photography”
到着の夜
すごいぜロンドン。全然有名じゃない地味な街角だってどのアングルから捉えてもどこからどこまで素晴らしい被写体だ。すっかり興奮してしまってホテルにチェックインするなり外に飛び出したオレ達4人は深夜までロンドンの街を歩き回った。生まれて初めて来た国なのに、なんかずっと前から知っていたような気がする。デジャヴって言うの?初めて乗った地下鉄だってとても懐かしい気がした。ロンドンよ、お前はこんなにもオレのことを待っていてくれたのか。
ロンドンに来られたこと、それが期待より200%以上イケてる街だったこと、何を見てもどこを歩いても嬉しくて感動したこと。あれやこれやが頭の中でメリーゴーランドしちゃってすっかりハイになったオレはこの夜なかなか寝付けなかった。一目ぼれの恋だった。
初日
話には聞いていたが、ホントに日本人はオレだけなのを確認して一瞬クラッとした。クラスの総勢は15名。女性の数のほうがやや多い。
カメラの使い方などの簡単なレクチャーの後‘テーマ’に沿った写真を見せながら写真の特徴に関する学習がすぐに始まった。プロジェクターを利用してクラス全員で鑑賞する。shooting(撮影)方法(ApertureやShutter speed)を基にした課題が与えられた。最初の課題は大英博物館の外と中を撮ることだった。英語なんかできなくても大阪仕込みのガッツとオレのカメラ技術にモノを言わせればまぁオッケーだろうと思ってきたが、あまりにも英語が分からなくてこの日の夜はさすがのオレ様もホテルに戻るなりベッドに倒れこんだ。
二日目
昨日と同じような流れで異なるテーマの写真を見ながら特徴について学習。その後街に飛び出して写真を撮る。テーマはtextureやパターンなどの特徴だ。
ロケ・ハンティング途中、ユニコン・ロンドン事務所に寄ってみた。社長は事務所の裏庭でタバコを吸っていた。この辺りの地域は建物内での喫煙が法律によって禁止されているらしい。裏庭って言うとちっちゃい感じがするが、樹齢何百年?みたいな大きな木々が立ち並ぶ広々としたガーデンだ。
社長と一服しながら自分がいかにロンドンにコーフンしているかを熱弁するオレの眼の前に薄茶色の丸っこくてフワフワしたものが飛び出した。「リスだよ」って、なんで人間の前にわざわざ飛び出して来るんだ?ふつー逃げるだろ。て、しかも座り込んでオレ達をじぃっと見上げている。「エサくれるの待ってんだよ」エーッ、じゃコイツは『飼いリス』?「まさか。誰も飼っていないよ。この辺りの庭を根城にしてるんだよ。ここだけじゃない。どこの庭にもリスとかハリネズミとか棲み付いている。この前なんかウチの庭の塀の上を小キツネが歩いていたよ。シッポがふっさふさの」
こぉんな大都会の超ど中心に野生のリス?ハリネズミ?キツネ?素晴らしいじゃないか!
三日目
ポートレート(人物)に入る。再びテーマに沿った写真を見せられた後、スタジオを利用してクラスメート同士で撮り合う。お互いに撮り合っていると親近感がグッと増して親しみが深まる。とは言え、相手(ロシア人)に「カメラの使い方を教えてくれ」みたいなことを聞かれたときは、このオレに(英語で)教えろなんて、こいつはどーゆー性格をしてるんだって思ったね。教えられる英語力があればこんなに苦労していないよ。見てりゃわかるだろ?
シルエットの撮影方法やスタジオ撮影の授業が続いた。キャンパスの内部に太陽の光が差し込むスポットを見つけた。反射板を利用して影のつけ方や消し方の授業がその場で行われた。
四日目
著名カメラマンの名前をリストから選んで2分間のプレゼンテーションをコース最終日(明日)するように言われた。プレゼンって、ひょっとして英語で?不安を忘れるために作業に没頭することにした。まずインターネットなどで人物の写真を選んだ。次にその人物の経歴や作品の紹介ネタを集めた。問題は、オレ自身がその人物に対してどんなイメージを持ったか?というスピーチ(英語)の部分だな。
午後は今日まで撮り溜めた写真をパソコン・ルームで加工する技術を学んだ。大きなプロジェクターを使いながらAdobe PhotoshopやAdobe Brideの使用方法を学習。ここで学習したことを土台にして、それぞれがパソコン(Mac)で撮り溜めた写真を加工してみた。
五日目
午前はプレゼン。オレはほとんど夢うつつで自分の番を終えた。それからクラス全員の作品鑑賞会が始まり、最後に皆で一票ずつ投票しあってベストを選ぶことに(トップ賞のやつにはプレセントが用意されてあった)。
夕方5時、コース修了証明書を手に打ち上げ会場に向かう。皆でアドレスを交換し来年もまたここで会おうな、とハグを交わす。あー、明日も学校に行きてー。そしてこの仲間と一緒に写真撮りてー。別れがたくて涙が出そうだった。教室も仲間もロンドンも。
と、まぁこのように超忙しい5日間ではあった。
オレ達4人はそれぞれ違うコースに参加したが、4人ともクラスで1人きりの日本人だった。オレはもちろんクラス一英語ができなかったが、先生達(2人)もクラスメートも本当に親切でシカトされることがなかった。オレが英語できないのを知っているのに話しかけてきてくれる。何とかオレに分からせようと手振り身振り入りで、だ。お昼ごはんにも誘ってくれた。男同士女同士で固まることもなく、みんな仲間、という感じだった。
評価のポイントが日本と随分違うことが新鮮だった。被写体を上手に撮ることは求められない。‘良い写真’とは‘コンセプト’がある写真のことだという。なぜこのように撮ったのかを伝える写真が素晴らしいという評価をされる。オレの場合は英語がだめだから先生やクラスメートが勝手に想像し評価をしてくれた。自分の口で伝えたい、と何度思ったことか。
実は最終日の作品鑑賞会でオレは何と2位の名誉に輝いたんだ。英語もしゃべれない、このオレが、だ。プロのカメラマンやカメラ道の経験者が混じってる中から選んでもらえたんだ。すごく嬉しかった。技術の良し悪しで評価されたわけじゃない、ってことはオレって自分で思っていたより感性が豊かだってことかな。
日本に帰ってこうして旅日記を書いてると、ロンドンに行ったこともセントマの教室で燃えたことも、もう何もかも白日夢だったような気がしたりするし、アイツ(ロンドン)のことを思うとちょっぴり心が切なくなる。結構マジで考えてるんだ。将来絶対ロンドンで暮らすって。で、思い切りあいつの写真を撮ってやるって。