MBA主導経済の顛末
2008.12.01
なに様コラム
世界経済が揺れ動いている。アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発したこの未曾有の金融不安は世界中に多大な影響を与え、それが世界同時恐慌をも引き起こそうとしている。
こんな時期にあるサイトでMBA留学フェアという告知を目にした。今回の金融恐慌の発端となったリーマンブラザースやメリルリンチなどの企業にはつい最近までMBA保持者たちが列を成して入社し、大都市中心にある最新の豪華ビルにある事務所で1日中コンピューターの端末の前に座り、モニター内で巨額のお金(この世界ではマネーというらしい)を動かし、億単位の収入を得る社員となることを目指してきた。
よく考えて見れば、今回の経済危機の元凶はアメリカを中心にこれら金融会社をリードしてきたMBA保持者たちが作ったビジネスモデルによって引き起こされたと言っても過言ではなく、彼らは言い換えれば経済テロリストと言えなくもない。そのような犯罪者たちを生み出し、今回の金融危機以前と内容が変わったとは思えないMBAへの留学を推奨することに私は合点がいかない。
MBAはもともとアメリカで生まれた大学院学位で、実務をベースとする高度な職能に対する評価を学位という形で確立したものだ。その根底にあるのは基本的に数字至上主義で、金融をはじめとして全ての産業において経済指標を数値化し、そのポートフォリオをベースにした戦略を主にコンピューターの中でシュミレーションする。この手法が農業や鉱工業に代表される実体経済と大きく異なり、コンピューターの中で無機質に繰り広げられるグラフの動きや数字の変化がビジネスであると多くの人たちに錯覚させてきてしまったのではないか。同時にコンピューターの発展が期せずしてMBA隆盛の後押しをしてきたように思うのだ。このような経済を「キイボード・エコノミー」と呼ぶ人がいるが確かに言いえて妙だと思う。
今この時代だからこそ学ぶべきは人間の根底に問いかける学科であるべきだと思う。
時流に迎合した一過性のビジネス手法を学ぶことよりも、急激なグローバル化やテクノロジー化が進む中、今こそ人間個人個人がどう生きていくのかといった命題に正面から対峙する必要があると感じる。社会や文化、宗教や哲学などの『人間学』とでもいうような学問こそが、不透明で混迷する世界にあっても自分を見失うことなく生きていく自信と力を与えてくれると思うからだ。
多くの経済アナリストや評論家たち(その多くがMBA保持者だが)が、あれやこれやの統計指標を基にして世界経済の動きを予測してきたが率直に言って当たった試しがない。っていうか当たっていればこのような事態にはならなかった筈だ。押しなべて彼らに共通するのはビジネスや社会を数字上あるいはコンピューター上で分析できるという傲慢な姿勢だ。真の構成因子は『人間』という予測不可能な非常に有機的な存在であるという大前提に気付いていないかのようだ。
そんな人たちに今もっとも必要なことは、青臭いと言われるかもしれないが「人間はなぜ働くのか」「生きがいってなんだ」「人はどうして争うのか」「お金ってどうして必要なのか」といったようなことを正面から論じ、それを追求していくことだと思うのだ。その延長線上にビジネスや政治そして社会システムがあることを決して忘れてはならないと思う。世界を動かしているのは株でもなければ、マネーでもなく人間なのだから・・・。