2009年06月26日
【コース体験記】Artscom@CSM オリエンテーション 西久保まりさん
日本では総合政策学部を卒業して普通の会社に就職。平凡ながら安定した毎日の生活に不満があったわけではないけれどいつのころからか3Dデザインに興味を抱くようになった私は思い切ってロンドン芸大のインテリア・コース(Graduate Diploma in Interior Design)
に申込みました。このコースが当時の私の興味に最も近く、かつ、『専攻学科がアートでなくても大卒でありさえすれば申し込める』ただひとつのHEコースだったからです。
アートのバックグラウンドは特に無くてもいいとは言われたけれど、実際のところを聞くと在学生のほとんどは建築学科か建築デザインを専攻した者か就業経験者だと聞き、私は不安になりました。実はそれ以上に不安だったのが、1年もの長期間をかけてがんばれるほど本当にインテリアの勉強を自分が好きなのかという心の迷いでした。留学プランを決行するとすれば会社を辞めて行くことになるのですから、入学した途端後悔するようなリスクだけは冒したくありません。
ユニコンの方に相談したところ紹介されたのがオリエンテーション・コースでした。英国の高校生が2年間かけて修了するアート&デザイン課程を外国人用に9週間にメチャ詰めしたポートフォリオ・コースだと説明されました。
ユニコンの方の言い分は次のようなものでした。
「忙しいコースだから寝る時間も不足するだろうが、疲れても寝不足でも君が面白いと思って9週間が終わったら、1年コースに行っていいんじゃないか?逆に、9週間すらもたなかったら、残念だけれどそれは君にロンドン芸大式アート学習が向かないってことだからしかたないね。それでもわけわからずに1年分の授業料をドブに捨てるリスクだけは避けられて良かったという結論になるだろう」
確かに。それに、いずれどこかできちんとしたアート&デザインの基礎勉強をしたいと思っていた私にとって9週間限定のオリエンテーション・コースは「渡りに舟」でした。
コースは基本的に「1週間1分野」のペースで進みました。
最初の2週間はLife Drawingを中心に、『Identity Project(自分という人間を表現するプロジェクト)』と美術館訪問授業が行われました。
3~7週目は、Fashion/Textile、Theatre/Performance、3Dデザイン、Fine Art、Graphicsの5つの分野の勉強。8週目は再びLife Drawing。
この8週目に『London Project』の展覧会と、「自分にとってのLondonを表現した作品」についてのプレゼンテーションが実施されました。
最後の9週目はポートフォリオを完成させるための時間で、最終日にはセントマーチンズのファウンデーション・コース入学のための内部面接が行われました。
コースはこのように、Life Drawingから始まり、Life Drawingで締めくくられたわけです。内容が濃い分、授業のスピードが速くて、何においても人より行動が遅い私にとって作品提出の期限を守ることが一番の苦労でした。
クラスでは「自由であること」がとてもリスペクトされるせいか、課題テーマこそあれ、私たちは好き勝手な発想で作品を作ることができました。あれこれ考えながら1日中作品づくりに没頭できることがとにかく楽しかったし、クラスメートがどんな発想でどんなものを作っているのか見るのも楽しみでした。はじめは人に自分の作品を見せることに抵抗を感じていた私ですが、慣れてしまうと互いにコンセプトや作品を見せ合うのが自分の作品づくりの上で大きな刺激になることが分かりました。Tutorは分野ごとに変わるのですが、3DDのTutorが自己紹介で「私は本当にDesignが大好きなの」と話していた時の熱く燃えた眼、『London Project』展覧会で見たクラスメートたちの情熱と会場の熱気は今でも心と肌に焼き付いています。
そして、オリエンテーションを終えた時、私は1年コースへの入学を決心していました。ただし入学先はGraduate Diplomaではありません。
オリエンテーション期間は私に「考える」ことを教えてくれました。
一日中作品に没頭するのは確かに楽しい、でもその一方で「この作品を作ってこの先どうなる?」と考えてしまう。同じ留学なら自分のバックグラウンドや経験を生かしやすいアカデミック方面に進んだ方が「得」なのではないか。「好き」と「得」の間で心が何度も迷いました。
答えを導き出してくれたのがオリエンテーションで過ごした時間です。私はオリエンテーションのフィロソフィを最も強く受け継ぐセントマーチンズのファウンデーション・コースを1年間の留学先に選びました。それが一番やりたいことが出来るところだと思ったから。
友人に自分の選択を伝えたら「それが一番その後につながる道だ」と言ってくれました。どんな結果になるかなんてわからない、けれど、自分の手で道を切り開くことに挑戦したいという気持ちの方が今は強いのです。
※ここで紹介している作品は、同じくオリエンテーション・コースを修了した佐々木君のものです
投稿者 unicon : 2009年06月26日 16:14