2015年07月01日
田口愛子さん(20歳):ファウンデ学生がロンドンのギャラリーとアーティスト契約の快挙!
2014年9月開始のファウンデーションコース(セントマーチンズ)に入学した田口愛子さん(20歳)はラブリー&オープンマインドのおっとり風お嬢さんです(ユニコン的印象)。お家がユニコン東京事務所近くという近距離感もあり、ファウンデーション入学後も付かず離れずの交信が続いていました。
その愛子さんから先日メールをいただいたのですが、今年10月からの学部進学先が決まったという報告に加えて、ロンドンのギャラリーからアーティスト契約のオファーをもらった、と言う、おめでたいニュースが↓
ユニコン様
こんにちは、いつもお世話になっています。
この度、新人発掘系のギャラリーからアーティストとしてオファーを頂きました!!!
ギャラリーのスタッフの方がファウンデーションショーを見に来てくれていて私の作品を気に入ってくださり、わざわざ私のウェブサイトを探し出してメッセージをしてくれました。本当に嬉しくて胸が高まります!直接お会いする時にお伝えするか迷いましたが、待ちきれずにメールしてしまいました(笑)
これがゴールではなくスタートなので気持ちを改めて頑張りたいと思います。
田口愛子
ひょお~~~。
まだ、ファンデを終えたばかりの青二才のヒヨッコよ、そんなヒヨッコに目の肥えたプロの、しかもロンドンのギャラリーが『契約』をおふぁあ!?
数週間後、手ぐすね引いて待っていたユニコン東京事務所にファンデを修了して帰国したてのゴールデンエッグが転がり込みました。
「おかえりぃ~、ささ、入って入って」 常日頃、ロンドン在住の年寄り上司から「客への気配りが足りない」とブツクサ指摘されている東京事務所スタッフもこの日ばかりはピンポンの音がするなり玄関にダッシュ、猫撫で声で愛子さんを奥の事務室へと連れ込みます。
用意したお茶を出すと飲む隙も与えずさっそく「事情聴取」開始です。
聴取担当は口が早い悪いという点では他者の追随を許さない、最近大台(ミソジ)に乗ったばかりのスタッフM。
M:きゃ~愛子ちゃ~ん、ほぉんとにお久しぶりぃ~、さあさ、ググッと飲んで。
去年、オリエンテーション修了後にスペインにバカンス旅行に行って、それから日本に帰国して事務所に遊びに来てくれた時以来よね。スペインの太陽を散々浴びた日焼け顔で刺激的な9週間のオリエンテーション・ライフをアゲアゲのハイテンションで語ってくれたよね。オリエン仲間との遊びエピソードや唐突的だけど原発の話、来るファウンデーションに向けたパッショナブルな心意気などなど。
実は私、あの日は帰宅前にロンドン事務所に電話しなくてはいけなかったから(愛子さんとの話をそろそろ切り上げなくてはいけない時間になった頃)「ねぇねぇ、もういい加減帰ってくんない?」とかなり露骨に催促しちゃったんだけど、覚えてる? そこまで言われてようやく玄関で靴を履きながらも愛子さんたら「あ!そうそう!それからね」と新たなトピックを語ろうとしていたよね、必死で食い止めたけど(笑)。
ええ、あの時も今もオリエンについては楽しかった記憶しか残っていないんですよ。それに引き換え、ファウンデは自分自身の壁にぶつかりもがき苦しんで一年が二年分の長さに感じました。
M:その壁のせいなのかしら、愛子さん、去年に比べてグッとシックな雰囲気になったわ。それにしてもロンドンのギャラリーとアーティスト契約だなんて素晴らしい土産話を持って来てくれてありがとう!
ユニコンさんにもお知らせしたけれど、ファウンデの卒業展示直前に急に思い立って自分のウェブサイト(http://atagart.jimdo.com/ )を作ったんですが、卒展を観に来たギャラリーの方がそのウェブサイトを見つけてcontactページから連絡をくださって。本当にただただラッキーでした。
M:もおっ、そんな謙遜なんてするもんじゃないよっ。
だって不安は消えないですよ。これって、バンドで言えばスカウトされて事務所やレコード会社と契約出来た、というところですよね? ここからがスタート地点ですよね。
M:どれだけネガティブなの!もちろん絶対に売れる保証なんて無いわ。確かに昔はアートやら音楽やらをやったところでどうやって食べていくんだ?と言われたけれど、今なんて東大出だろうが早稲田出だろうが、有名大学を卒業しただけじゃ何にも保証されない時代よ。でもアートは当たったらデカイわ。
チャンスが巡ってきたのは「運」かもしれないけど、掴み取ったのは自分の努力と実力なの!
さ、まずは「壁」だらけだったファウンデーション時代のことから話してもらいましょうか。
9月 :ファウンデーション開始。
※ 専門pathwayとDiagnostic pathway(診断型)の2ルートあります。
11月中旬 : Diagnostic学生を専門pathwayに分科する。専門pathwayも更に分科されます。
12月 :翌年度の進学先(学部課程)を決める&登録開始。
(翌)2月 :学部課程進学のための内部審査。
3月 :結果発表。
5月 :ファウンデーションコース修了。ファウンデーションコースの卒展開催。
M:オリエン終了後はDiagnostic pathway(診断型ルート)のファウンデーションに進むユニ学生が多い中で、愛子さんは初めからFine Artの専門 pathwayを選んだのよね?
ええ、実は高校時代の時もオリエンの先生達からもグラフィックデザインが向いていると言われていたのですが、自分がやりたいのはファインアートだとハッキリしていたし、この気持ちは絶対ブレないという強い自信があったので迷わずファインアートのpathwayを選びました。
M:専門pathwayの授業はどこのキャンパスを使ったの?
Diagnostic pathway組はKings Crossキャンパスがメインですが、専門pathwayの多くはArchwayキャンパスがメインです。Kings Crossに行くのはたまにでしたね。
M:愛子さんが選んだFine Art pathwayでの全貌を教えてちょうだい。
Fine Art pathwayは総勢125人。この125人がコース開始後の11月にさらに3つのpathwayに分科されました。内訳は、①映像やフォトグラフィーがメインだけど、実際は「何でもあり」のFine Art Practice(60人) と②Painting(35人) と③Sculpture(30人)です。
私が入ったのは ②Paintingですが、チューターの口癖が「もっと大きい作品に取り組め!」。でも、一人当たりのスペースが狭すぎて物理的に無理でしたね。まぁ、しょうがないか(笑)。
M:前年度のユニ学生から「ファウンデでは週1の割合でプロジェクトに取り組むから、これをさぼると1ヶ月後には4つの負の遺産を背負うことになってしまう」と聞いたけど、愛子さんの時代もそうだった?
Graphic pathwayとかはそうかもしれませんが、Fine Art pathwayでは最初が週1ベースで、徐々に2週間プロジェクトになって、最後のプロジェクトだけは2ヶ月くらいかけました。
Fine Artは比較的マイペースに進んでいけますが、友達が在籍していたFashion Communication pathwayはプロジェクトが3つ同時進行というのもザラで物凄く忙しそうでした。どういうことかと言うと、プロジェクト‐1の終盤にプロジェクト‐2が始まって、そのプロジェクト‐2の中盤からプロジェクト‐3がスタートする、の繰り返しです。Fashion Communication pathwayの学生はみんな楽しいって言っていたけれど、ゆる~いFine Art pathway組の私から見たら目まぐるしくて絶対無理!というスケジュールです。2つだって大変なのに。
M:あー、それは私も絶対無理だわ、怠け者で連絡無精だからマルチタスクプレーヤーになんかなれないもん。ほら、たった1人の人と付き合うのすら面倒だと思う時があるのに、それが2人とか3人とかと同時に付き合うってことになったら超マメな上に器用かつ体力が無いと無理でしょ?
でもFine Art pathwayの流れが幾分ユルいとは言え、途中から来なくなっちゃった人もいました・・・。
M:そうね、狩猟民族でビザの心配もないヨーロピアンは執着心が少ないから、自分の気持ちが変わったらすぐに学校を辞めたり専攻を変えることは昔からよくあること。多感な若い時は進路が変わることは不思議じゃないしね。日本人学生でもたまに学校に行かなくなっちゃう方もいるわ。
2014/15年度は『宝くじ1等賞』か『隕石』に当たるくらいの確率と言われている、‘あの’超難関のBA Fashion(セントマ)に合格したユニ学生が例年になく多かったんだけど、コース開始後に授業についていくのが大変でという相談も多かったの。
心から好きだと思えるアート&デザインの授業なのについていけなくなる理由、わかる?
そう、完全に英語力の問題なの。ファウンデーションの英語入学条件はチョチョッとがんばれば割とあっさり取れるスコア(IELTS 5.0)だけど、ほとんどが「本国人かインターナショナルスクール出身者」で占められるクラスの中では「圧倒的に英語ができないマイノリティ」になるわけでしょ。辛いよねー、大学生の中に混じっている幼稚園児みたいなものだもん。
だからユニコンはウザがられ嫌われながらも学生の顔を見たら「英語英語英語」とわめいているんだけど、ね。。。。
英語問題となるとどうしても暗-くなっちゃうけど、これはユニコン学生に限った話じゃないのよ。日本人全体の問題よ。はっきり言って、これでもユニコンのお客さんは(国内レベルで見たら)バックグラウンド的に結構なレベルの人が多いのよ。そのユニコンでこれだもんね(ややキレ気味)。ふ-っ(鼻息)。
M:暗い話はこれくらいにして、愛子さんが幸運を射止めたセントマのファウンデーション卒業展示会【以後、Show】の話にしましょうよ。
Showは5月14日から16日の3日間、Kings Crossキャンパスで開催されました。
最初に展示会場を見たとき、私の作品スペースの両隣に陣取っているのがどちらも大変優秀な学生で、私の作品が彼らの引立て役で終わってしまうのでは、と心配になってしまいました。
Show期間中は学生が当番制で会場の見回りを行うのですが、自分が当番の時はやはり自分の作品エリアで立ち止まってしまうんですね。すると、私の作品の前は素通りするのに両隣の作品の写真を撮ってそのまま帰ってしまう来場者が多いことに気づき、とても落ち込みました。写真を撮るだけでなく、両隣の学生の連絡先やメールアドレスを教えてくれと頼んできた来場者(おじさん)までいたので、自分の非力さを痛感しました。
M:でしょうね。
ところで、BAやMAのShowともなるとロンドン芸大は大手通販並みの装丁ブローシャー(カタログ)を作るわよね。卒業生を売り出すためだろうけれど、展示作品の写真や連絡先のウェブサイトはもとより、制作者(学生)のメールアドレスや電話番号まで載せるじゃない。初めてMAのShow会場に行ったとき、展示中の作品の下にプライス(オファーされた買値)が掲示されているのを見て驚いたわ。だって、なんかアカデミックな響きがある「大学」という場所と「売買=カネ」という俗的なものの‘同居’がちぐはぐな気がして。日本の美大じゃ考えられないもん。
ファウンデーションでも展示作品の売買をするの?
値段をつけることはできます。でも作品の下に掲示されるのは学生名と進学先の大学名とコース名だけで、つけた値段がそこに掲示されるわけではありません。多分、問い合わせがあったら売るんじゃないでしょうか?
M:大学が学生の売り込みまでするなんて、と最初は驚いたけれど確かにこれはものすごくいい手よ。
ロンドン芸大のパワフルな演出でグイッと押し出してもらえたらチャンスに遭遇する可能性が大きいもの。世の中に認めてもらうための手段もツテも悪知恵もまだ身に付けていない若いアーティストにとってはとてもありがたいアレンジよね。
愛子さんの場合だって、showで愛子さんの作品に眼を付けたギャラリーの人が愛子さんの名前をググって検索して、ウェブサイトを見つけ出して連絡してきたってことでしょ? ものすごい求愛行動じゃない!
※専属契約先のギャラリー:http://pintoraart.com/ , https://instagram.com/pintora_art/
「あぁ、私ダメだぁ…」とドーンと落ち込んでいた分、ギャラリーからコンタクトがあった時はまさに「天にも昇る気持ち」になりました。あまりにも嬉しすぎて、思わずユニコンさんにもメールしちゃいました。すごく良い作品を作っていた友達にも「私にですらギャラリーから連絡があったから、あなた達もウェブサイトとかメールとかを細かくチェックした方がいいよ!」って勧めました。
M:いい子ね、愛子ちゃん(苦笑)。それにしても若手にチャンスがたくさんあるって素晴らしい。でもさ、いくら‘世界のセントマ’とは言え、ファウンデーションのShowにまで欧米のメディアやギャラリー関係者が ‘お宝探し’に来るなんて。セントマがますますゴーマンになるのもしかたがないわね。
これが日本やアジアだといくら国内で評価されている有名美大でも卒展に海外メディアやギャラリーが押し寄せるなんてことはないもの。
この前、セントマの卒展を見てきた日本の美大卒業生が「俺ら、あんだけ何ヵ月も徹夜して卒展の準備をしたって、見に来てくれたのは親と親戚と友達くらいですから」とちょっと投げやりに呟いていたわ。確かに親戚とかに来てもらっても、ね。
日本のアーティストって大体が世間知らずで人に取り入るのも駆け引きもヘタクソでカネの計算まで弱いから、油断すると人知れずどっかで埋もれちゃってしまう恐れがあるじゃない? 若い才能を世の中に押し出してくれる機関が日本にもあるといいのに。あ、そのためには、まずは日本の美大が「世界」で売れる大学にならなきゃダメか!
M:Showだけじゃなく、ロンドンはアート業界者との遭遇チャンスに恵まれた街だけど、愛子さんはファウンデ中にコンペに出したりインターンを経験したり、ってやりました?
「インターンシップをやりたい人は詳細聞きに来てね~」とか「知り合いのギャラリーで作品を置けるよ~」って先生からのお誘いはよくありましたが、私は学校や作品への取り組みでいっぱいいっぱいでした。
ユニコン学生には日本の大学を休学中の人や会社を辞めて留学してきた社会人が多いですよね。こういう人たちは将来のキャリアアップという目的でファウンデに入ってきていて、最初からファンデ修了後は(学部に進まず)帰国するという計画なんですね。だから、ファンデが始まるとすぐに授業と並行してインターンをしていて、行動的で立派だなと思いました。
M:日本はいまだに、「海外帰り」「海外で働いた経験あり」という履歴に対して『すご~い!カッコイイ』みたいな反応をしがちな国でしょ? ちょっとセコい感はあるけど、ユニコンはその思い込みを「利用」しない手はないと考えているの。だからファウンデのみで帰国する計画の社会人の方には「1日バイトでもインターンでもいいから‘ロンドンで働いた’実績を作ってきなさい」とアドバイスしている。ありがたいことに日本じゃ今でもこれが就活でけっこう効くのよ。
それと「就職後に‘肩書き倒れ’にならないためにとにかく現場で通じるアート英語の猛勉強」がもっと大事。セントマの名前を使いまわしても実力が伴わないとすぐにメッキが剥がれるじゃない? でも(アートの才能はともかく)使い物になる英語力さえあれば日本でならまだまだやっていけるわ。
ですよね。 (ファウンデが始まるや否や)インターンなどを始めた周りの学生を見ると「私はこのままでいいのかな。この先私はどうなるんだろう」と思わず不安になってしまうことがありました。
私、チューターと親密になるとか、昔から苦手だし。せいぜい、ウェブサイトを作ったりメールを出したりするくらいしか思いつかなくて。
M:それができれば十分よ。私なんか‘苦手’どころか、子供のころから反体制人間で『先生には噛みついてなんぼ、先生と仲良くするような人は信用できないし友達にもなれない』と思っていたわ。社会人になってもこんな調子だけど、幸いっていうか外資系企業でしか働いたことがないんだけど、外資だと小憎たらしいくらいのキャラが丁度いいのか “元気があっていいね~”とオジサマ、お局上司、クライアントに褒められたくらいよ。日本のお堅い企業だったら即クビでしょうけど。あ、その前に雇われないか。(エ~ッ、こういうやつをこのままにしておいていいのか、ユニコン!)
今後、私がすべきことって何でしょう? 名刺を作る?自分をPRする? あちこちにコンタクトする?
M:手っ取り早いのはガーディアンみたいなメディアに送ることじゃないかしら? 情報発信の大元だし。メールなら作品の画像もウェブサイトのリンクを送るのも簡単だし、受け取った側もすぐにアクセスできるし。イギリスだけでなくアメリカや中国やフランス、もちろん日本にも送れば?
以前セントマのファウンデに在籍していたユニ学生(Yukikaさん)はあらゆるファッション雑誌に作品を送りまくったら、「NYLON」にイラストが掲載されたよ。
← NYLONに掲載されたYukikaさんのイラスト
コンビニで立ち読みしてた時に私もたまたま目にしてびっくりしたもん。
まずは夏休み期間に世界中のコンペを調べてこれからの出品計画を立ててみたら? 日本は市場が小さいけど上海や香港とかはいまだにアートバブルが続いているでしょ。
そう言えば、世界のアートマーケットの70%はアメリカと中国で占められていると聞いたことがあります。
M:そう。ギャラリーにとってロンドンは活きの良い若手アーティストを釣り上げるための穴場なの。釣り上げたのが小鯛ならとりあえず自分の池に囲っていい餌を与えながら成長を見守るわけ。そしてお金をたくさん落としてくれるアメリカと中国の市場で売るの。最近は中国よりもアジアの市場すべてをターゲットとしているシンガポールで売るという流れがあるみたいよ。
この夏休みはたくさん作品に取り組みたいです。ファウンデでアブストラクトのプロジェクトがあったのですが、私、すごく苦手で。だからこそアブストラクトに挑戦したいんです。友達は「アブストラクトはパッションで出来る」と言うけれど、私がパッションだけでやるとグチャグチャになるだけ。アブストラクトとミニマリズムのアイディアがあるからトライしようと思います。昨日は帰国するなり画材を買いに出かけました。
M:私もアブストラクトのペインティングって何だろうと長い間疑問だった。で、この前、『ディオールと私』というドキュメンタリー映画を観たのよ。ラフ・シモンズが初めて手掛けたディオールのオートクチュールコレクションの舞台裏に迫った映画なんだけど、何と、ラフ・シモンズはSterling Rubyというアーティストのアブストラクトからインスパイアされたドレスを作っていたの。
損得勘定でしか物事を考えられない人は「アブストラクトなんて何の役に立つんだ」と言いがちだけれど、ちゃんとこうやってデザイナーにインスピレーションを与えて、それが新しいプリント柄になったりするのね。
何かを産み出すための思考訓練はFine Artで学ぶんだってことを確信したわ。
私も「ディオールと私」見ました!Fine Artの作品がそうやって新しいFashion Printやテキスタイルを産み出すメディアになるのだから、painting発信のパワーもテキスタイルやグラフィックデザインなどに派生されていけばいいですね。
私はファッションには詳しくないし興味もあまりなかったですが、この映画を見て一つの分野にとらわれずに他の分野のアーティストの事も知っていくべきなんだな、と思いました。
M:このごろユニコンがよく聞かれるのは “(日本の大学ではなく)敢えてロンドン芸大に行くメリットは何ですか?”という質問なの。何に対するメリットなのかよくわからないけれど、費用に対する見返り効果ということなら公立高校から国立大学の医学部に行って美容整形外科医にでもなればいいわけです。見返り効果がハンパないから。
愛子さんは「日本の美大とロンドンの美大」の違いは何だと思う?
日本の美大に進んだ友達の話を聞いて考えたことですが、日本の美大のメリットは次の3点だと思います:
●テクニックを磨ける。
●時間をかけて制作できる。
●(当たり前だが)授業で言葉の問題がない。
日本の美大は基本的な技術に重きを置いていて、テクニカルな作品をどれほど作れるかがポイントのようです。ひとつの作品にかなりの制作時間をかけられるので高いクオリティの作品を作ることができる。特に油彩はそうです。授業内容をちゃんと理解して制作していきたい人や自分の思いを正確な言葉で伝えたい人なら、言葉の問題がない日本で勉強する方が良いのではないでしょうか。
一方、ロンドンの美大のメリットは次のような点だと思います:
●作品に対するアイディアの広げ方を学べる。
●技術が低くても個性として受け入れられる。
日本の美術高校時代に解らなかったアイディアの広げ方をセントマのファンデで学べました(もちろん今でも苦労しているけれど)。アイディアは作品の基盤なのでテクニックがあってもアイディア無しでは作品になりません。逆にアイディアさえ面白ければ大した技術がなくても評価されます。
●短い時間で沢山の作品を作ることができる。
セントマのファウンデでは一週間に1プロジェクトを進めますが、その1つのプロジェクトの中で何個も何個も作品を作りディベロップさせていきます。だから1年間でビックリするくらいの量の作品ができます。その分、ひとつの作品に長い時間をかけられないので、日本の美大生のように大きな油彩などは描けません。
●若手のアーティストにチャンスが沢山ある。
●英語が伸びる。
アイディアと技術の両方あるのがベストなのだから、日本で技術を習得してから海外に出ても良いと思います。英語の問題であればトランスレーターを雇えばいいわけですから。でも、自分自身の言葉で自分の作品を語りたいのであれば留学するしかないでしょう。
東京の美大に通っている友人は「技術は沢山学べるけれど授業では自由に作品を作ることができないから、好きな作品を作りたいときは大学の外でやるしかない」と言っていました。
セントマなら授業中に自分の作りたいものを作ることができます。ペインティングのクラスにいても立体を作れるし洋服だって作れます。
まぁ、どちらもそれぞれの良さがあるのだから、自分がその中の何を一番欲しているのか、で決めるべきだと思います。
M:そうなのよ! 自分に必要な勉強は何かという命題の答えは自分の頭と体を使って導きだしてほしいのよ。
Yahoo知恵袋で調べたり経験者の話を聞いたりしたって、それは所詮「他人」の話じゃない。だから、ロンドン芸大が留学先として価値があるのかどうか?なんてことは自分自身で体験して決めてちょうだい、というのがユニコンの本音なの。
セントマのショートコースなら1週間から体験できるでしょ。
私個人としては、若いうちは自分でもまだ気付いていない自分の可能性を発見するためにたくさんのプロジェクトにチャレンジするのがいいと思っているの。一つの作品にじっくり取り組むには『スタイル』を確立しなくてはならないけれど、現実にアートで食べている人だって『スタイル』の確立にずっともがいているんだもん。
M:愛子さんはこの10月からウィンブルドンの学部課程に進学が決まっているのよね。どんな感じで決まったの?
ファウンデーション後期に3校(セントマ、チェルシー、ウィンブルドン)のBA Fine Artに申し込みました。立地とネームバリューに惹かれてセントマを第一希望にしてはいたけれど、学校の雰囲気と作風は絶対ウィンブルドンの方がいいなと思っていました。ファンデ時代のペインティングのチューターがウィンブルドンのBAで教えている人だったのですが、とても素敵な先生で、それもウィンブルドンに強く惹かれた理由のひとつです。
結局セントマからはオファーをもらえなかったのですが、セントマは合わないな~と薄々感じていたので当然の結果です。ウィンブルドンと両想いになれて、今とてもハッピーです。
M:カネや地位(立地やネームバリュー)のある富豪(セントマ)に一瞬目がくらんだ女が最終的には本当に愛していた人(ウィンブルドン)と結ばれたっていうストーリーですね。
日本人は良く言えば従順で受け身、悪く言えば「ガッツが無い」から、ファウンデーションなら訓練上手のセントマが適しているけれど、BAは自分が惹かれる作風のカレッジに行くべきでしょうね。それが学部進学の際の大切な審査ポイントでもあるのですから。
そういえば、愛子さんの代はいつになくチェルシーのBA Fine Art進学者が多かった気がするんだけれど、何かあったのかしら?
ファンデ期間中のBA出願前に他カレッジの方が自校のPRプレゼンをしに来るのですが、チェルシーのプレゼンターが 「チェルシーのBA Fine Artは今一番勢いと実力があり、セントマのBA Fashion並みに‘competitive’で‘challenging’」と言ったからだと思います。
M:ぶほっ。確かにチェルシーは立地最高だし日本人が夢想するヨーロッパそのものの雰囲気のお上品で優美な学校だけど、難易度がセントマのBA Fashion並みっていうのはいくらなんでもちょっと言い過ぎじゃないの。
あはは。ちなみにWimbledonは今、スカルプチャーがすごく人気があって、セントマファウンデのSculpture pathway組も(セントマではなく)Wimbledonを希望する人が多かったみたいです。
M:Sculpture、いい! 私も超好き! 絶対にこれからもっと需要が増える!
多くの日本人はいまだにSculpture= 彫刻で、彫刻ときたらミロのヴィーナス・ピエタ・ダビデ像みたいに石をカンカンカ~ンと削ることを想像しがちだけど、一体いつの時代の話よ! ピエタは15世紀、ダビデ像は16世紀でミロのヴィーナスなんて紀元前1世紀よりも前じゃないの。
このSNS時代、フォトジェニックなものは写真撮ってみんなでシェアしたい的な流れになっていて、立体作品や空間を捉えることが先端トピックのひとつなのよね。
たとえば、建築なら京都の伏見稲荷大社とか。(安直な例で申し訳ないけど)去年の夏に六本木ヒルズに大量発生したドラえもんとか、大阪にも現れた世界中の川に出現したフロレンティン・ホフマンのラバー・ダックとか。 えーー、何これ!みたいなモニュメントや、食べ物のFacebookやInstagramのイイネボタン数って多いじゃない?
うん、そうよ、絶対これからはSculptureは人気になる!(となぜか断言までするM )。
わー!ますますBAが楽しみになってきました!
あと、ロンドンにいたからこそ初めて体感したっていうか考えたことがあります。
イギリスでは今年の5月初めに選挙があったのですが、国民の関心が高くてすごく盛り上がっていました。
選挙結果として脱EUを目指す保守党のキャメロン首相が勝利したわけですが、それって、私がBAにいる3年の間にイギリスが本当にEUを抜けちゃう可能性があるってことですよね?
そうすると今現在、EU学生は私達 (international students)より安い授業料で大学に入学してきているけれど、イギリスが脱EUしたら私たちと同額の授業料を払わなくてはいけなくなると言うことですよね? そうなったら通えなくなっちゃう学生が増えるんじゃないでしょうか?
M:そう。理論上はそうなるわね。学費だけじゃなく、International Student同様、英国滞在ビザも必要になるから今みたいに好き勝手にイギリスで働けなくなるだろうし、イギリスに留学しようという人も減るでしょうね。でもイギリスとしてはそれで全く問題無しなのよ。
ギリシアのような不良債権組のツケを他のEU諸国と一緒に尻拭いしたり、ビンボーなEU加盟国から押し寄せる大量の出稼ぎ目的者に本国人の職を奪われたりするくらいなら、もうこれ以上、外国人が来なくなってくれる方がずっと望ましいのよ。それに、タダの治療目当てでイギリスへ移住を目論む東ヨーロッパの人がわんさかいるせいでNHSサービス(国民健康保険)の財源も危機的状況になりつつあるという話だし。こういう人たちにイギリスに住みつかれて生活保護受給者や年金受給者にまでなられたら国が傾くわよ。
国の無料サービスというのはその国の国民が払っている税金でまかなう訳でしょ? 超富裕層はともかく、きのう今日流れ込んできた外国人の治療費や生活保護費が自分たちが払っている税金で賄われていることにイギリスの中流家庭は怒り心頭なのよ。
だからイギリスにとっての「脱EU」はメリットの方が大きい、という考え方が大勢を占めるようになって、それが保守党の勝利につながったみたいよ。
それにしても、イギリス人が賢いなあと思うのは最後まで通貨をユーロにしないでポンドを守り続けたことよね。ほんとイギリスは上手だわ。日本もイギリスの強気な姿勢と政策から大いに学ぶべきだと思うわ。
イギリスの選挙には本当に感動しました。投票日前にテレビのゴールデンタイムで党首陣による討論番組が放送されていたのですが、私と同年代のイギリス人の友人たちはみな、大変熱心に見ていました。テレビを見られないときは後からYouTubeでちゃんと見ていて、友人同士でも選挙についてディスカッションしていました。
AKBの総選挙並の盛り上がりと認知度ですよ。だって、そこまでAKBに詳しくない私でも、誰と誰が競り合っていて、公約とか争点とか何となく知っていますもん。笑
政治家がどんな発言をしているかを若者もみんなちゃんと知っているんです。労働党派の友達は選挙の後にめっちゃ怒っていて選挙結果日なんか一日中落ち込んでいましたが。
アメリカの大統領選挙は国民がリーダーを選ぶから熱狂するのもわかるけど、日本と同様に政党に投票する選挙でもあれだけ一般の人たちの関心を集めていたことが私にとっては衝撃的でした。自分も「いち国民」としてあれくらいに真剣に受け止められるようにならなければ、と思いました。
M:日本人は結果しか見ないじゃない。たとえ、選挙期間に熱くなっても自分の意思と違う結果が出ると、「どうせ俺が一票入れたところで何も変わんないよ」ってまるで無駄な骨折り損をしたような気持になるでしょ。党の政策を読んだり誰に投票すべきか考えたりした時間は決して無駄なことではなかったはずなのに。
これって “完成することより、そこにいたるまでのプロセスが大切なのだ”というロンドン芸大のアート哲学と同じことなんじゃない? (うぅ~~話の持って行き方にちっとばかし無理やり感が)
Mの舌ハンドルが更なる深みにはまりこむ前に、愛子さんの卒展作品をごらんください↓
M:素人目ながら、このペインティング、もちろん、そのまま壁に飾ってもいいけど、Tシャツとか食器とかの、いわゆるアートグッズに仕立てられそう。うーん、タイポグラフィーにしてもよさそう。
オシャレなレストランとかコムデギャルソン、アニエスベー、オープニングセレモニーみたいなアートに造詣の深いファッションの店舗の壁に飾られているのが想像できちゃう。私だったら、この鉄製の心臓でもってロンドンのファッション系ショップに売り込むんだけど。
あぁ、私、本当にファッション知らない(笑)。でも、この絵がプリントされたTシャツがあれば買う!と言ってくれた人もいたし、Mさんにもこんなに褒めてもらえて、なんか自信が出てきました。
ギャラリー契約や次のウィンブルドンでのBA生活など手に入れたチャンスを生かしていきたいと思います!
M:ユニコンも見守ってるわ!がんばってね、ヒヨコさん。
投稿者 unicon : 13:44