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第39話(最終話):ガンダムになりてぇ

こんなにクチベタで一徹で頑固で不器用で世の中渡っていけるのか?みなを不安にさせてきた山夫君であったが、彼は彼なりに自分の道を見つけていたのだった。
う~ん、親がなくても子は育つのか。

2007年10月:山夫の夢
そろそろ卒業後のことを考えるようになりました。卒業できたらラグビーを続けるかガンダムになりてェなというのが僕の夢になっていました(ガンダムになるというのはその会社に就職するということです)。でも英国では大学生が就職活動できる時間がとても少ない。学生は勉強するんだよ!と言うわけです。

2008年4月:ガンダムを狙え
ガンダムのために5月に日本面接に行きました。リサーチと試験の真っただ中の決行で、そのため日本滞在中も隙があればスカイプやメールで大学と連絡を取りながら頑張りました。ガンダム一本やりのスタンスに不安はあったものの、他社とのマタがけなんかは全然考えませんでした。僕は頑固なだけじゃなく好きなものにとことんこだわるタイプなのです。自分で言うのもなんですがモチベーションは常に高かったです。というより、もう留年もできない崖っぷちファイターだったので怖いもの無しでした。だから攻めました。
ガンダムに対する過剰な(異常な)愛のたまものか、こうして未来の職場は決まりました。あとは卒業試験を残すばかりです。
  
塩とゴマ塩(違いはあるのか?)
最終試験中の食事は、塩だけふったパスタ、ゴマ塩だけ振ったメシ、抱いた炊飯器からそのままかっ込む素メシ、そしてレッドブル。睡眠を絞って頑張りました。これで落ちたらガンダムも何も全部パーだとか思いつつ、かつてないほどのスリルさえ感じて。
1ヵ月後、結果が届きました。「受かってろよ、この野郎!」と念じて開けた封筒の中には「2-1」の結果が入っていました。

●●山夫、退場前にひとくさり●●

『今ふうの若者』のイメージからもっとも遠く四文字漢字熟語と死語に近い諺と比喩表現を好んで使うことから「若年寄り」の座をゆるぎないものにしてきた山夫君からの最後のメッセージです

ここから書くことは蛇足です。厚かましさという名の親切心で書きたいと思います。

留学のギフト
留学で得たのは最高品質の友達と考える力です。人間は一人では生きていけないし、ただのMASS(大衆)の中にいたとしても心は孤独なロンリーエンジェルです。

孤独
留学はある意味、戦場です。生き残るためには「孤独な場所で孤独になる勇気」が必要です。たとえば、ああ、ガス切れた、どうしよう?電話する?あ、でもなんて英語でいえばいいんだ?なんてのが入り口です。解決するためには情報を収集し、相談し、判断し、実行するしかない、自分で。

留学は遊びじゃないです。心と心を積み合う戦争です。ロンドンに居る間に色々な留学生を見ました。途中で断念する学生、精神を病む人、ひきこもる人、被害妄想にかられる人、失踪する人、薬におぼれる人、酒におぼれる人、異性におぼれる人。でも自分の非力さや弱さ、甘さに絶望することがあっても生き残らなくてはいけない。あきらめたらそこで試合終了です。
僕も留年したときは夢破れて山河あり状態で、一時はやる気をなくし、引きこもり、カビ、ゴミのような生活をしていました。でも、2度、3度の失敗なんてクソ食らえだ。心がくじけたら立て直せ!夢がなければ探せばいい!自分の心に敗れなければ何度だって立ち上がれる。

雨の日の友
真の孤独を知っている人には真の友達ができます。常に助け合うようなのは本当の友達ではありません。助けないことも優しさです。2回ぐらい会ったことあるよね?的な友達とはわけが違います。Friends in rainy dayが集まったコミュは強いです。なにより楽しいです。

考える
2つ目のうんちくは「考える力」です。ここからはほとんど暴走に近いものになりますがご了承ください…… 断言します。人間はMARKETED PRODUCTS(マーケティングされた産物)です。我々は絶えず情報や誰かの意図によってなんらかの影響を受けています。その状況下で自分を形成するのは「考える力」にほかなりません。これは、ほかの考えを認めないというエゴではありません。こういう考えもある、こういう意図がこの人の発言、行為にはあるんだな?これはどういう点が利点で、何を見落としているのか?と考えることです。

長々とうんちくを垂れてしまいました。こんな性格の人間なので高飛車に聞こえたでしょうが、ここに書いたのはあくまでも僕にとっての真実。そうだ、最後に一つだけ引用させてください。

「おだやかな人生なんて、あるわけがないですよ」
スナフキンが、ワクワクしながらいいました…。
(ムーミンより)


最後に、みなさんの未来の成功を祈るとともに、僕を大学にねじ込んでくれたミスター・S、編集してくださったミセス・ローズ、両親兄弟友達、僕を支えてくれた全ての方に大いなる感謝と尊敬をこめてこの超駄文を終えたいと思います。

2008年8月:静子、最後の挨拶

4年半のロンドン滞在を終えた自分を客観的に観察すると留学前よりバランスのとれた人間に成長 できた気がします。前は優等生ぶっていたし頭が固かったけれど日本国内だけで身に付けた価値観は世界では通用しないことに気付かされました。
 
ロンドンにいれば世界中からの人々と話ができ、色々な価値観を持った人と出会います。
「母国では毎日内戦でさー」とさらりと言う人や母国のひどい貧困実情について語る人がいます。
テロ爆発が絶えないアフガニスタン出身者もいます。それまでニュースで見ていたことが彼らの経験談として語られました。その一方では何人ものメイドにかしずかれて暮らしている人や『お城』を持っている人がいます。
大学にはジーンズのレクチャラーがいたり、レクチャーやクラスの予告無しキャンセルが相次いだり。
机の上に座っての授業があったりスタバでクラスが行われたり。
こうした(日本では起こりえない)現実を体験することで「世界」が身近なものになり、何が正しくて何が悪いのかという判断は大変個人的なものなのだと気付かされました。私が『正しい』と信じてきたものが実は日本という国の中で作り上げてきたものなのかも…と。
そういう概念を壊されることで、自分の眼で見て自分で考える力がつくと思います。「こうでなきゃ」 と決め付けずに柔軟に受け止めているうちに視野も広がったと思います。

私は意識しないうちにたくましくなったようです。知り合いもいない言語も違う世界に18歳で 飛び込んで4年も過ごしたのですからそりゃ強くもなるわって感じです。頼れる家族も友人もいないし、辛い状況に耐えないといけないし、問題が起きれば自分で対処しなきゃいけないし。顔つきにも自然とそういった思いが表れたのか、久しぶりに帰国した際には姉に「可愛くなくなった」と言われ続けました。日本で求められるようなかわいらしい女性とは程遠く、ひとりでも生きていけるような逞しさを願わずとも手に入れてしまったのです。まぁ、女性としては嬉しいような、嬉しくないような…なんだけど。

そんなこんなで、柔軟でバランスのとれた人になれたのが、留学の財産だと思います。

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